論文・著作

動き出す海上自衛隊 
―Japan's New War―

2001年11月執筆

海外に派遣される海上自衛隊

11月、米国で起きた同時多発テロ(9月11日)を受けて、日本の外交・安全保障政策にも大きな分岐点が訪れた。8日、安全保障会議が開かれ、海上自衛隊の艦艇3隻をインド洋に派遣することが決定された。防衛庁設置法の「調査・研究」規定に基づく派遣である。これを受けて9日、長崎県佐世保市の海自佐世保基地から第2護衛隊群のヘリコプター搭載艦「くらま」(5,200トン)、ミニイージス艦(注1)と呼ばれる「きりさめ」(4,550トン)、護衛艦隊所属の補給艦「はまな」(8,150トン)の3隻は次々と佐世保基地を離岸した。佐世保湾を抜け外洋へ、そして太平洋を南下し、マラッカ海峡を通ってインド洋に向かった。

海上自衛隊の艦艇が「調査・研究」を根拠に日本近海を離れて活動するのは初めてのことであり、政府は米太平洋軍司令部(ハワイ)で8日まで行われた日米調整委員会ワーキング・グループの協議結果を踏まえるなど綿密に基本計画を策定した。これは、対米後方支援を行うための艦艇が11月下旬にも派遣されるのに備え、先遣隊として活動海域までの海洋状況や他国の船舶・航空機の運行状況、港湾設備などの情報収集を行うためのものであった。所謂、第一陣と呼ばれたのがこれである。

そして、第二陣として20日、テロ対策特別措置法に基づき、米英軍を後方支援する自衛隊の活動内容の詳細を定めた実施要項が承認された。同日夜、海上・航空両自衛隊に派遣命令が出され、派遣規模は海自1,200人、空自180人とされた。

防衛庁が20日に公表した“実施要項の概要”によると、16日に閣議決定した基本計画では、米軍などへの協力支援活動の期間を、11月20日から2002年5月19日としていた。しかし、要項ではこれを短縮、2002年3月31日までとし、状況により5月19日まで延長する、とした。これは「財政的な理由」(中谷長官)からで、物資調達費を今年度予算の予備費から充当するため3月末でいったん区切ったものだ。この要項にはイージス艦は含まれておらず、同艦の派遣は正式に見送られる形となった。この問題については後述することにする。

25日午前8時前、米英軍の後方支援を担当する補給艦「とわだ」(8,100トン)が呉基地を出港したのに続き、午後3時までの間に、アフガニスタン難民への救援物資をパキスタン・カラチ港に運ぶ掃海母艦「うらが」(5,650トン)、そして、この2隻の警戒にあたる護衛艦の「さわぎり」(3,550トン)もそれぞれの基地を出港した。これが、第二陣である。

「うらが」はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の要請に基づき、テント、毛布、給水容器などの救援物資約200トンを輸送する。カラチ港へは2週間ほどで到着する予定で、物資を下ろしてUNHCRに引き渡し次第、帰国する。

「とわだ」と「さわぎり」は、第一陣とインド洋で合流し、補給艦2隻と護衛艦3隻の計5隻態勢で早ければ12月中旬から、軍事作戦に参加している米艦艇への燃料の洋上補給のほか、英領ディエゴガルシア島など米軍補給基地間の輸送活動を始める予定である。活動期間は来年3月31日までとなっている。

イージス護衛艦派遣の是非

今回の海上自衛隊の派遣に関して論議を呼んだのは、イージス艦派遣である。既述の通り、イージス艦は、派遣されないことになった。護衛艦の派遣が了承され、イージス護衛艦が認められないのか、理解に苦しむ。そもそも、なぜ、非戦闘地域における米英軍の後方支援のために護衛艦が派遣されるのか、補給艦だけで行かないのか、答えは簡単である。日本の補給艦を日本の護衛艦が守るからである。

従って、10方向から同時に攻撃されても、それらの対象物をコンピューターによって瞬時に優先順位まで判断し撃破出来るイージス・システムを有する護衛艦を派遣しない、という理由が分からない。自衛艦・官をいたずらに危険にさらす日本の政治は、一体誰のためにあるのか、近隣諸国の顔色を見るためにあるのだろうか。しかしながら、今回の海上自衛隊派遣に対して異を唱える国など見当たらない。

むしろ、パキスタンの大統領などは、自衛隊はなぜ戦闘地域に行かないのか、と素朴な疑問まで抱いている。また、ケリー米国務次官補は「イージスは米国を支援する多くの他国が提供できない機能であり派遣は有益だったかもしれない・・・」と述べていた。ベーカー駐日大使もイージスの派遣が見送られたことに対して失望感を隠さなかった。現在、イージス艦を保有しているのは、ケリー氏の指摘通り日米両国だけである。

この様な海上自衛隊の艦艇の防衛機能強化や同盟国との連携の重視に限らず、イージス艦を派遣することには、日本にとって国益にかなっていた。日本のエネルギーは、米国などとは異なり、中東に依存している。その中東から日本への安全な運搬ルートの確保は、日本にとって主要な課題である。所謂、シーレーン防衛である。しかし、その構想は現実的には手が付けられていない状態が長らく続いている。イージス艦は、他の艦艇よりも情報収集能力も高い。従って、今回の派遣に参加することは、日本からインド洋にかけてのルートにおける港湾施設や他国の船舶・航空機の運航状況などの情報を集める絶好の機会だったと考えられる。

Japan's New War

第二陣が派遣される模様が、CNNで報じられていた。報道内容は、概ね以下のようである。"日本が米軍の非戦闘地域における後方支援をすることを決定し、第二次世界大戦後始めて日本の艦艇が戦時下の海外に派遣された。そのために日本政府は新たな法律を作り、派遣期間は必要があれば、半年間延長することが出来る"。そして、このニュースを報道する際のテロップは、このように記されていた、Japan's New War。

このことは、同時多発テロに対する米国の軍事行動を報道する際、America's New Warという表現が度々されていたことを考慮すれば、日本も新しい戦争に参戦した、と認識されているとも取れる。日本が戦争に参戦しているというのは穏やかではないが、同盟国がテロの攻撃に遭い助けを求めている時に、日本にとって唯一の同盟国米国に手を差し伸べて上げないのもまた不幸な話である。

テロ撲滅に立ち上がり、助けを求めている同盟国に対して出来うる限りの支援をしてあげることに問題はないと考える。但し、今回の派遣を機に日本が軍拡やアジア地域における不安定要素に成らないように細心の注意が必要である。我々は、歴史から多くのことを学んでいる。日本が日本や世界に対して誤った方向へと進まないようにすることは、国民一人一人の責務ではないだろうか。

(注1)イージス艦はイージス・システムを搭載しているからイージス艦であり、「あめ」型護衛艦は、いわゆるシステム艦ではあっても、イージス・システムを搭載しているわけではなく、あくまで、「ゆき」「きり」型の後継艦である。対空能力が格段に向上しているわけではない。なぜ、ミニイージスと言われるのか?「自衛隊装備年間」によれば、対空ミサイル(シースパロー)や対潜ロケット(アスロック)が垂直発射装置(VLS)になっていて、外観上似ているからのようである。加えて、CICにイージス艦のスクリーンを小型にした戦術状況表示のスクリーンが数枚あるので、そのスクリーンだけを見れば、視覚的にもイージス艦の装備に近いように見えると想像される。しかしながら、実質的には、「あめ」型護衛艦がイージス艦の役目を果たすことは出来ない。これだけ、象徴的にイージス艦が問題になった以上、報道機関には、正確で適切な報道が求められる。

2001年11月執筆

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