論文・著作

中国脅威論 
―増大する中国国防費―

2002年3月執筆

最近、本屋などで中国脅威論というような中国に関する書籍や雑誌の特集をしばしば目にする。それらは、大別すると経済的な側面、軍事的な側面と2つの視点に分けられる。軍事的な問題としてよく論じられる点は、簡潔にまとめると次のようなものである。この十数年、良好な経済に支えられた中国においてGDPや国家予算が増大する一方、国防費も著しく増加しており、中国が軍備拡張をし、軍の近代化を推進している。それは、我々にとって脅威と成り得る、と言ったようなものである。しかしながら、果たしてそれは、真実と言えるのであろうか。

3月6日、第9期全国人民代表大会(全人代)第5回会議に上程された中国の2002年度政府予算案では、国防費は前年度比17.6%増となっており、14年連続2桁の伸び率となった。この国防費の伸びは、現政権の軍備拡張路線が、今後も引き続き行なわれることを示していると言える。

中国の国防費の正確な予算額は公表されていないが、推計約1684億元、およそ約2兆7千億円と指摘されている。この推計額は、前年比で2桁の伸びが始まった1989年の200億元余りと比べると約8倍にあたる。同時期に約5倍になった国内総生産(GDP)の伸びを遥かに上回っている。

気鋭の中国政治・安全保障研究者の一人であるトーマス・クリステンセン(Thomas Cristensen)MIT准教授は、もし、中国が我々(米国やその同盟国、そして他の友好国)の脅威と成り得るのであれば、以下の3点の条件を満たさなければいけない、と指摘している。第1として中国が、今後も高度経済成長を持続すること、第2に、軍の近代化を推進すること、そして、第3に、海軍力増強によって紛争地域への兵力投入能力を大幅に高めることである。

確かに、90年代に中国は、国防費を膨張させ続けた。その要因は、91年の湾岸戦争で、米国のハイテク兵器の威力を見せつけられ、軍の近代化への要求が強まったことにあるといえる。以来、中国はロシアから各種兵器を大量購入する一方、独自の軍事技術開発に注力してきた。

しかしながら、仮に中国が、それら3つの条件を満たしたとしても、我々の脅威となるとは限らない。なぜならば、多くの国々もまた同じような条件を満たしてきた。例えば、第二次世界大戦後の英国、独国、伊国なども経済発展と軍の近代化を行ったが、彼らは、我々の脅威とは成らなかった。また、日本も同様である。経済においても軍事力においても日本は、世界のトップクラスへと成長したが、他の国に対して脅威には成らなかったし、成るはずも無かった。日本には、自衛のための戦力は存在するが、他国を侵略する戦力は無く、また、日本には、そもそも自衛以外の交戦権がないのである。

詰まるところ重要なことは、国家の意図であることが分かる。では中国の意図とは、何であるのか。我々は、そのことを考えなければいけないのではないか。一部の識者は、中国の意図は、アジアにおける覇権を得ることである、と指摘する。その際、最も良く利用される論拠は、中華思想である。しかし、誰一人として中華思想を説明・証明できる人はいない。結局、それは、憶測・推測でしかない。憶測や推測で相手の立場を測るのは、あまりにも危険である。

昨年、WTOにも加盟し、2008年には、オリンピック開催を行なう中国が、以前にも増して国際社会への関与を深めてくるのは、明らかである。その際に、日本は、中国とどのような関係を構築していくのか。そして、アジア地域の平和と安定に向けて日本と中国両国が、お互いにどのような貢献が出来るのか。考えなければいけないことは、山積していると言える。そのためにも中国脅威論などというさしたる根拠も無い議論は止めにして、より積極的な日中の対話の機会を創出する事が、大事なことのように思えてならない。

2002年3月執筆

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