論文・著作

ブッシュ政権のミサイル防衛に迫る 
―米国編―

2001年7月執筆

昨年十月、「米国と日本―成熟したパートナーシップへの前進」いわゆる「アーミテイジレポートが発表された。このレポートでは、日米関係を日英関係のように変えたい。日米が上下関係にあるのではなく、対等な関係になるべきだと論じた。そして、このレポートに参加した多くの日本問題専門家が、ブッシュ政権に入閣している。これを受け、「親日派」が多数参画している米政権を歓迎する向きがあるが、「親日派」と「知日派」は意味が異なる。多くの「知日派」を配したブッシュ政権に日本がどのような関係を構築していくのか判断を迫られるであろう。

ブッシュ大統領は、5月にNDU(National Defense University)でブッシュ政権の外交・防衛政策の指針について演説した。これからの新しい枠組みとして、Nonproliferation(不拡散),Counter proliferation(拡散対抗措置),Missile Defense(ミサイル防衛),Nuclear Reduce(核兵器削減),の四つの点を今後の外交・防衛政策の柱として掲げた。

これら一連のクリントン政権からブッシュ政権への変化によって、本質的に何が変わったか。匿名を条件に、米国政府高官にこれらの本質的な変化について質した。

―――ブッシュ大統領は、NUDでの演説で新しい枠踏みという言葉を何度となく使い、政策の転換を強調していました。これは、基本的な質問なのですが、1・2年前までミサイル防衛をTMD(注1)と呼んでいましたが、最近は、BMD(注2) と呼んでいます。TMDとBMDは何が違うのですか。

政府高官 TMDとNMD(注3) の呼び名の違いは、政治的な意味しかないのではないでしょうか。技術的にはそれらの二つは全く一緒ですよ。確かに、ABM条約(注4)の解釈の中ではTMDとNMDは若干違うのではないか、と言う説もありますが、基本的に一緒だと考えています。現在では、アメリカは単に、MD(Missile Defense)と呼んでいます。日本ではBMDと呼んでいますね。

ブッシュ政権はクリントン政権とは違います。ABM条約に矛盾しないかと考える前に、先ず、MDを開発します、開発が第一義的なのです。

また、先に述べたようにTMDとNMDは、技術的には同じなので別けることは勿体無いです。例えば、北朝鮮や、イラクがミサイルをアメリカに撃った時でも、日本に撃った時でも同じ軍事衛星を使うわけです。従って、同じ衛星を使用するのにT(戦域)だとかN(国家)だとか区別するのは、勿体無いわけです。名前が変わったのは、政治的な目的で変えたのです。TとNを変えたのは政治的な問題です。

日米同盟の防衛の力はデータシェアリングが全てを決定する

それと、中谷長官が、TMDを日本独自にやると言いましたが、それは無理でしょう。技術的に日本だけでは無理ですよ。中谷長官が言ったことは良く分ります。つまり、政治的にアメリカに巻き込まれないために言った発言でしょう。でも、コストが高すぎる。先ほど、技術的には日本だけでは無理と言いましたが、日本が技術的に優れているところもたくさん有ります。本気でやれば、日本だけで出来るでしょう。でも、それには莫大なコストが掛かります。それに加えて、質の問題から次に規模の問題が出て来ます。やはり、日本だけでは、無理でしょう。Command&Controlについて中谷長官は、日本国内の政治的判断に基づいて強調しているだけでしょう。それは、適当な判断だ、と言えると思います。

問題は、データです。アメリカの軍事衛星が得たデータを日本は当然使用します。日本のイージス艦がデータを得たら、アメリカに知らせるのは当然のことです。これは、集団的自衛権の行使では有りません。日本の民主党のこれらの問題に詳しくない一部の議員は、この様なデータのシェアリングを集団的自衛権の行使に当たると言っていますが、以前、野呂田長官がデータシェアリングは集団的自衛権の行使には当たらないと言っています。例えば、北朝鮮がミサイルを2発、発射したとします。それを打ち落とすためにアメリカのイージス艦からミサイルを1発、日本の自衛隊が1発、とそれぞれ1発づつ発射したとして、どちらか一方が打ち損じた場合どうしますか。そのような場合に、電話でやり取りするような次元では、話にならないわけです。瞬時の情報伝達が大事になるわけです。どちらかが、打ち損じた時点でお互いを補完し合う必要があるのです。その時に電話でのやり取りでは遅すぎます。瞬時の情報伝達が必要なのです。

そもそも、データのシェアリングが無ければ、日本の防衛力は弱まりますよ。これは、Command&Controlとも全く違う問題です。

同盟国への核の傘は存続させねばならない

―――現在、ミサイル防衛のシステムは完全では無い。報復措置として核兵器は、今も重要ではないか。多くの国は核兵器を持っていないが、大量破壊兵器(注5)(Weapons of Mass Destruction:WMD)を所有している国が存在する。これらの攻撃の被害に対して核報復することは想定されているのか。

政府高官 核抑止は変わりません。今後、抑止がいらないわけじゃない。確かに、ブッシュ政権では長期的に核抑止力を低下させていこう、核兵器の数を減らしていこう、としていますが、それは、あくまでも長期的な問題であって、ここ5・6年で核抑止の必要性が無くなるわけではありません。同盟国に対する核の傘は、今後も続けていきます。

それから他国が、例えば、北朝鮮や中国、そしてイラクがWMDを使うならば、こちらが核を使うかと言えば、それは明言できない。相手より先に核を使うか、先に使わないかは、これは言えないのです。つまり、No-First-Use of Nuclear Weapons(核兵器の「先制不使用」)の問題ですよ。なぜならば、他の国はWMDを持っていますよね、これが問題です。中国などは相手より先に核を使用しないと言っていますが、本当のところは分りません。むしろ、彼らは、アメリカにもそう言って欲しいから言っているだけでしょう。それではこちらの抑止力がなくなってしまう。ブッシュ大統領は、あらゆる報復手段を使用すると言っています。これは非常にあいまいな表現ではありますが、報復手段が何なのかわからない限り、相手国に対して抑止力は発揮されるわけです。

先ほど、あなたが言ったようにブッシュ大統領はNDUの演説の中で4つの点を述べました。不拡散、拡散対抗措置、ミサイル防衛、核兵器削減、これらの全てが重要で、何か一つが欠けてしまうと駄目なのです。うまくそれらを包括的に進めていかなければいけません。つまり、核の抑止力一つでは不十分なのです。これからは、核抑止だけでは駄目で、包括的に政策を考えていかねばなりません。

また、ご承知の通り我々は、WMDを持ってはいません。何か紛争や戦争が生じたとき、そして、相手が負けそうになったときに、相手がWMDを使用するのではないかと危惧しています。例えば、イラクのバグダットまで我々が進んだ場合、相手がWMDを使用するかもしれない。敗戦が濃厚になったとき、そのまま負けるのかWMDを使用するのか考えた場合、どの道負けるのですからWMDを使用するぐらいは、もうどうでも良くなっているでしょう。でも、核を使用されるとなると、それは痛い。その際に、抑止力とし核は必要でしょう。使うとは言えないが、使わないとも言えないのです。抑止力政策については、我々のわからない領域、例えば、心理学など様々な領域があり、その政策をあまり変えない、つまり安定させることが抑止になるのではないか、という説もあります。

台湾有事の際は日本が中国の核攻撃のターゲットに

―――日本のケースに限って言えば、ミサイル防衛は中国からの核攻撃を想定しているように思えます。日本が、中国からの核攻撃のターゲットになるには、どのようなシナリオが考えられますか。

政府高官 日本を攻撃してくる能力としては、ロシアが一番、次いで中国、そして最後に北朝鮮でしょう。しかしながら、意図や潜在性から言えば、それは全く逆の順番になります。一番が北朝鮮、二番目が中国、そしてロシアになります。

日本が中国からの核攻撃の脅威に曝されるシナリオは簡単なことです。ずばり、台湾有事しかないでしょう。その際には、アメリカは横須賀に配備している航空母艦インディペンデンスや沖縄の嘉手納基地の航空部隊を派遣せざるを得ない。日本は、シーレーン防衛をしなくてはいけないでしょうし、また、アメリカは後方支援を頼むかもしれません。

中国は、その際に、WMDを使うかもしれません。また、中国のスポークスマンは、「日本に対して核攻撃もあり得る」と言うことになるでしょう。有名な学者、クラウゼビッツは次のように言っています、「攻撃する際は、相手の弱点を探してそこを攻撃するのがベスト」。日本に関しては、日米安保が弱点になるでしょう。つまり、先ほどのように、中国は「ミサイルのターゲットを日本にまで拡大しますよ」と言うことで、アメリカの在日基地の使用を牽制して来るでしょう。また、ミサイルを発射する素振りを見せるだけで台湾の株価は急落し台湾の経済に大きな影響を与えるわけです。つまり、発射するかどうかではなく、発射する素振りだけで十分威力があるわけです。

米国は、MDの開発・配備のためにABM条約を撤回することが出来る

―――ブッシュ大統領は演説で「我々は今日の世界のあらたな脅威に対抗するためにミサイル防衛を構築する新しい枠組みを必要とする。そうするために,我々は30歳になるABM条約の制約を超えていかなければならない。」と言っていますが、米国はABM条約を破棄する可能性がありますか。

政府高官 ABM条約に関しては、abrogate(破棄)は適切じゃないですね。renounce(放棄)する、それも違いますね。ABM条約の条項では、withdraw(撤回)出来るとされています。我々は、撤回することが出来るのですよ。ブッシュ政権になって、この可能性はかなりあります。MDが第一なのです。確かに、ABM条約は、冷戦時において貢献したと思います。しかしながら、冷戦後は、その貢献度は下がっています。そのABM条約を今後も維持するのか、MDを開発して配備するのか、を比較した場合、ブッシュ政権はMDを選びます。まぁ、どちらにしてもMDは、やりますよ。日本はBを付けますが。それに見合ったようにABM条約を改善していくと言うことにも興味はあります。

しかしながら、ロシアも分っているでしょう、我々が、いずれはwithdrawすることを。それは、ロシアにとってHappyではないですが、ロシアは分っていますよ。それに、ロシアも今までどおりの核戦略を維持するだけの経済力はもう無いわけですし。ロシアも気付いていますよ。

―――米韓日の防衛協力などに関心はありますか、これから防衛協力体制などを構築したいと考えていますか。

政府高官 米韓日の防衛協力体制は、是非、構築したいですね。以前そのための協議組織を設置したこともあるのですよ。これは、いずれやりますよ。ただ、日本の教科書問題はナンセンスですね。日本政府は、「内政干渉だ」と言って修正など何も対策をしなかったですよね。確かに、この件に関しては内政干渉でしょう。それは、同意します、だからアメリカ政府も内政干渉になると判断し、何も言っていません。

しかしながら、本音を言わせて頂くと、何とか対応の方法があったのではないか、と思います。なぜ、日本は何もしなかったのですか。日本の国益を考えるとナンセンスですよ。国益を考えれば、何か手があったと思います。それに、この問題に関しては、何とか改善の方策を見つけ出さなければいけないと考えています。なぜならば、韓国と日本の関係が悪くなれば、韓国は徐々に中国寄りになっていきますよ。韓国と日本の仲が悪くなるのを歓迎するのは、北朝鮮と中国だけでしょう。恐らく、ロシアも。アメリカにとってそれは、国益を害します。


2001年7月執筆

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