論文・著作

同時多発テロ後、世界は本当に変わったか 
―その3―

2002年11月執筆

「同時多発テロ後、世界は本当に変わったか その2」では、同時多発テロ後の世界で変化があった点として、第一に同盟関係、第二として大国間の協力関係、そして第三に伝統的抑止力に変化があったのではないかと論じた。では、日本やアジア諸国には何か変化はなかっただろうか。

先ず、日本であるが、日本は、ある意味で変わった、ある意味で変わらなかった、と言える。別の言い方で言えば、日本は変わったけれど、その傾向が続くかどうかは分からない、と言うべきだろうか。変化した第一点目は、自衛隊がインド洋へ米英などの後方支援のために初めて派遣されたことである。これは前例が無いことであった。第二は、官邸が強力なリーダーシップを発揮し、決断力を示したことである。官邸が、自衛隊を派遣するためにこれほど決断力を示したのは、湾岸戦争以来のことではないだろうか。加えて、日本の外交政策を担う外務省が色々な問題を孕んでいたにもかかわらず、一人官邸が踏ん張り、英断を下したと見て取れる。三点目は、これは同時多発テロだけが要因ではなく、中国の軍事大国化や北朝鮮のミサイルの脅威などの存在もあると考えられるが、日本での脅威に関する認識が一時的ではあるが非常に高まった。テロに限って論じれば、その意識は米国民ほどではないが、少しは芽生えているように思われる。(本来であれば、地下鉄サリン事件の際に、大規模テロに備える危機意識が高まるべきであったと思われるが。)

最後に、日米の情報交換が一段とよくなったことが挙げられる。ただし、まだまだ日本国内の調整が不十分である。つまり日本には、その情報を法的に管理する制度が十分整ってはいない。公務員には、ある程度の守秘義務が課せられているが、政治家にはそれが欠けている。国会議員は安全保障に係る非常に重要な情報に接する機会が多々生じてくるのだろうが、現状の体制では、情報管理において非常に心配である。特に、リークが懸念される。もっともリークしていると国会議員が認識せずに、事実上リークしてしまうようなケースも考えられるが、やはり情報管理に対する法整備が必要だと思われる。米国の場合、国会議員は約500人いるが、本当にセンシティブな情報は大体5人〜8人ぐらいにしか伝えられない。ただし、その際、所属政党に関係なく伝えられる。日本はこれから国会議員の情報管理をどうするかが課題である。

アジア諸国の外交的立場も変わったと思われる。まず、中国は、相変わらず軍事力を増強していることは変わりないが、米国と一緒にテロと戦うために様々な情報交換を行ない、またいろいろな戦略的対話もある程度行なっている。水面下には、今もって中国の軍事力の増加という問題が続いているのも確かであるが、国境を越えるテロ問題に対する協力もある程度、米中間の安定に寄与する材料になっているようだ。ロシアもテロ以後、急速に親西側になりつつある。テロ後、ブッシュ大統領に真っ先に電話をしたのもプーチン大統領であり。また、その内容も米国がこのことに対してどのような行動を取ろうともロシアは、対抗措置を取るつもりは無い、というような今までは考えられないものであった。また、今回の米国の軍事行動に於いて米軍がウズベキスタン軍の基地を使用しているのもロシアからの後押しがあり、ソビエト時代に得たアフガンの情報もロシアは米国に提供している。韓国は、興味の対象が南北関係に収斂し、テロに対する戦いや戦略が、北朝鮮との関係に対してどのような意味があるか、ということに注目しているように思われる。しかし、一つ変わったことがある。それは韓国側が、北朝鮮のWMD(大量破壊兵器)やミサイルなどの開発などに以前よりも注目するようになったことである。フィリピンは、基地の使用は認めなかったが、軍事協力が拡大した。タイ王国は、あまり表に出さないが後方面でかなり協力しているとされている。マレーシアも情報面においては、以前よりも協力している。これらの変化を観察するとアジア諸国と米国との関係は、テロ以前よりも、テロ後のほうが良好な状況のように思える。

だが、もし米国がイラク攻撃に踏み切れば、状況は変わるだろう。論点は「同時多発テロ後、世界は変わったか」から「イラク攻撃後、世界は変わったか」に変化するかもしれない。対テロ戦争に関しては、米国に協力姿勢を見せている各国もそれが対イラク戦争となれば、状況は変わらざるを得ない。特にイスラム教徒がたくさんいるアジア諸国では、対米姿勢の変更も大いに予想される。また、湾岸戦争時に米軍の軍事力を目の当たりにした中国が、軍の近代化を進めたように、イラク攻撃で更に近代化した米軍の実態が明らかになれば、それを目標に新たな軍拡も懸念されるだろう。既に、イラク後を見据えて日本の役割に期待を寄せる声が聞こえてきているが、日本の対イラク政策がどこにあるのか、未だに見えてこない。対テロ戦争から済し崩し的にイラク攻撃に関与するのだけは、避けるべきだろう。

2002年11月執筆

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